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「修羅場」体験で部下は本当に育成できるのか? ~人材育成方法論の都市伝説(1)

「修羅場」体験で部下は本当に育成できるのか? ~人材育成方法論の都市伝説(1)

[更新: 2017年04月26日 / カテゴリ: 学びの行動定着]

企業ではまだまだ「修羅場経験」が重要と思われている??

よく部下育成に関して「修羅場経験」の大切さを強調するリーダーや人事の方がいらっしゃいます。弊社にも、そういった内容が実施できないかといったご相談を頂くことがあります。
「部下を成長させるために、あえてプールに突き落としておぼれながら泳ぎを覚えるのを待つっていうやりかたですよ。やっぱりあのやり方が一番だと思うんですよね」
そして皆さんこうも仰るのです。「『いや、何と言っても、自分が一番成長したのがそういう場面だった。だから同じ経験をさせて若手を成長させたい』という意見が社内、特に上層部に多いんですよね。」
しかし、率直に申し上げて、WorldArxはそういった立場を取りません。リーダーやエクゼクティブ、あるいは人事の人材開発担当の方が過去に「修羅場」を経験しているから、そういう経験をそのままコピーして実装し、今の若い人に与えようという考え方に大きなリスクが潜んでいるのではないでしょうか。

社会環境の変化と価値観の多様化による風評リスク

何故そう考えるのか、いくつかの観点から考えてみます。まずは、風評リスクです。少し古いデータではありますが、連合による調査(2014年11月28日)全回答者(3,000名)によると、『勤務先はブラック企業だと思う!』と回答している人は実に4人に1人、特に20代では3人に1人が自分の勤務先はブラック企業であると「既に」回答しているのです。人は、過去に乗り越えたつらい経験をいつのまにか美化してしまう傾向があります。そしてさらに輪をかけて悪いことに、自分が人を育てる側になると、「自分は溺れながら泳ぎを憶えたんだから、お前もそうするべきだ」とばかりに他者にも「修羅場」による学びを押しつけたがるのです。これだけ働く人々とその価値観が多様化しているなかで、もし今、プールに突き落とすようなやり方をやってしまうと、育てる対象が退職するのみならず、ブラック企業とみなされ、あっという間にネットで拡散されてしまうリスクがあります。そうやって育ってきた皆様にこのお話をすると、大きな驚きで受け止められますが、企業としての風評リスクは非常に大きなダメージにつながります。

社会環境の変化と価値観の多様化による人材育成モデルの変化

今のリーダーやエグゼクティブが若手の頃に修羅場を経験してその結果として成長したのだとしても、厳然たる事実としてそれは何十年も前の話です。言うまでもなく、社会環境は大きな変化を遂げています。働き方や、人々の持つ価値観も多様化し、昔の常識は今の非常識になりつつあります。過去の成功体験が現在の人材育成のモデルとしてそのまま通用するという考えはある種非常に危険なのではないでしょうか。

「そうは言っても、自分が若い頃に上司や先輩から手取り足取り仕事を教えてもらったかというと、そんな記憶はないんですよ。むしろその逆で『仕事は教えてもらうものではなく、自分から盗むものだ』と言われたり、あるいは『プールに突き落とされて、半分溺れながらも必死でもがくうちに身につくものだ』と教わってやってきた。だから、部下を育てろと言われても、そのやり方がわからない」というリーダーの方も比較的多くいらっしゃいます。しかし、部下が育つのは、上司が手取り足取り仕事を教えたときではありません。言うまでもなく、研修やトレーニングだけを実施したからそれだけで人が成長するという類のものでもありません。WorldArxは、部下が一番育つのは、以下の3つの条件が揃ったときだと考えています。

1)背伸びしなければ結果が出せないレベルの仕事の機会が与えられる
2)周囲(上司や先輩)の協力を仰ぎながらやり遂げる
3)周囲(上司や先輩)によって振り返り(対話・リフレクション)をする
これは今も昔も変わらない、人材育成の普遍的な要素であり、1)2)3)が回っていくプロセスだと考えます。
ただ、大変幸いなことに、かつての日本企業では人事や上司が特に意識しなくても、この3つの要素とそれらが回る環境が自然と揃っていたのです。高度経済成長期には成長する市場の中で様々な会社が切磋琢磨する中で1)のような仕事はおのずと増えていきました。そして良し悪しは別として、上司や先輩と朝から晩まで文字通り机を並べて長時間労働を共にしているので日常のやりとりの中で2)の観点での相談もしやすい環境がありました。さらに3)に関しては、本人たちにその意識はなかったかも知れませんが、ほぼ毎晩?のように行われていた「飲みニケーション」が自然と対話と振り返りの場になっていたのです。

しかし、今はそうした前提が変わっています。大きな変化の一つとして、「従業員の多様化」が急速に進んでいる点が挙げられます。かつての長時間労働をいとわない「正社員・男性社員」中心の職場は、すでに過去のもの。非正規社員、子育て社員、家族の介護を担う社員、高齢社員、外国人社員、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)社員といったさまざまな背景と制約を持つ人材が集う職場に変わってきているのです。昔は良かったなと懐かしがっていても何も変わりません。現状に即した形で、意識的に人を育てる環境と組織風土を創るために新しい「やり方」を生み出さなければいけなくなっているのです。

人材育成モデルにどのような変化を起こさなくてはならないか?

具体的には、1)に関しては成熟・低成長経済のもとではそういった背伸び(ストレッチ)が必要となるレベルの仕事を意図的に用意し、部下に任せるしかありません。そこで重要なのは、育てる側の心構えであることは言うまでもありません。プールに突き落とすという例えを使いましたが、部下の成長にストレッチはもちろん重要ですが、ストレッチングは、ただ単にプールに突き落とすことではありません。
入念に準備し、おぼれてしまった時のためのリスクヘッジとして浮き輪や救命胴衣を用意し、どのくらい泳げているのかあるいはいないのかをきちんとモニターし、何よりも「この人に育ってほしい、この人を育てたい」という心構えを正しく持ち、正しい方法で背伸び(ストレッチ)させることが、現在の世の中の流れの中での人を育てるということなのではないでしょうか。リーダーにとって、部下にどのくらいレベルの仕事を任せればいいのかは大きな悩みの種でしょう。筋肉痛にならないと筋肉が発達しないというのはよく知られた話です。これと同じく、負荷を与え、ある程度の痛みを感じる状態で仕事をしないと能力は上がらないと思っています。しかし、その負荷が大きすぎると、成長どころかケガにつながります。そこで適度な負荷はどのくらいか、さじ加減を考えることが何よりも重要なリーダーの仕事の一つです。(こちらの記事(正しい課題設定のやり方~営業マネージャーが部下育成を成功させる鍵とは?)もご参照ください)
また、2)についても職場で働く人たちが助け合い、成長のための学びを良しとする組織風土を創り上げる必要があります。弊社のヒアリング調査によると、「直属上司が、研修やトレーニングをそもそも支持していない」「l職場の雰囲気が、研修やトレーニングの意義を認めていない」この2つが部下の成長を妨げている要因のトップ2つであることがわかっています。

昔は効果的であった「飲みニケーション」も今はやりづらい。ならば、日常の業務時間のなかで、3)を行うための面談やフィードバックの時間を意図的に作らなければなりません。実は、時間外に面談やフィードバックをやろうとすると、「それは業務命令ですか?業務時間外に実施するということは、それは必須ではないですよね?残業代は頂けるのでしょうか?」と拒否されるケースが増えてきているのです。毎日縄のれんをくぐって上司にありがたいお説教をされて育ってきた皆様にこのお話をすると、大きな驚きで受け止められますが、これは良し悪しではなく、価値観と働き方の多様化による一つの現実として冷静に受け止める必要があるのです。

現状に沿った「対話」をベースにしたアプローチへ

こうやって改めて考えてみると、今現在は、今そこにある現実から何を学び、行動をどう変えるかということを考えていくほうが、人材育成のアプローチとしては現実的かつ実践的ではないでしょうか。人を育てるという営み近道や魔法はないのです。「地に足のついた地道な人材育成」とは、部下の日常を丹念に観察し、今の力量を見極め、リスクマネジメントを担保しながら、部下にとって120%ぐらいの文字通りの「背伸びの仕事」を任せてみて、「何が起こっているのか?※何が起きたのかの過去形ではなく、現在進行形であるところが味噌です」そして、状況によっては支援や最小限の介入を提供し、タイミングタイミングで「それは何を意味しているのか。何がよくて何が悪いのか」「では、それを踏まえてこれからどうするのか?」というリフレクション(振り返り)を日常の一環として地道にサイクルを回すことでしかありません。そしてそれはトレーニングやワークショップといった「非日常」だけで行うことではなく、「今日はこうだった」「それにはこういう意味がありそうだ」というふうにリフレクションし、「明日は何をしようか」といった思考を「日常」のなかでプロセスとして回す実に「地道な活動」に尽きるのです。

WorldArxでは、こちらにあるような管理職、マネージャー、リーダーの「人を育てるリーダー」へのマインドセット変革ワークショップをご提供しています。その中で、リーダーが持つべき心構えと、具体的にアクションとリフレクションを回していくやり方を習得していただく内容です。是非こちらからお気軽にお問い合わせいただければと思います。

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